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自室に戻っても、手の震えが止まることはなかった。
ベッドに腰をおろしたシンは、背中を丸めて、指を祈りのかたちに絡め、下の指に血が通わなくなるほどきつく重ねた親指を眉間に押しあてた。
同室のレイは、備え付けの端末を操作し、今回の出撃の報告書を纏めている。
どうして、そんな風に淡々としていられるんだ。
普段と変わらないレイの横顔を上目遣いに見ながら、シンは唇を強く噛んだ。
アスランとメイリンを、殺した。
口の中はからからに乾き、焼けつく喉がひりひりと痛む。
「任務、だったんだ」
シンは、罅割れた唇から息を漏らす。
「だから、仕方が、なかった」
頬を流れた雫が、赤い軍服の袖に落ちて濃い染みとなる。
「シン。何を泣いている?」
レイが、モニターに視線を向けたまま問うた。
「泣いてなんか、いない」
震える声を抑えながら答える。
「裏切り者を始末しただけだ。悲しむことは、ない」
抑揚のない声で返されたレイの言葉に、シンは、堪えきれずに嗚咽を漏らした。
「仲間、だったんだぞ」
「裏切り者は、敵だ」
レイは、シンを突き放すように言葉を吐き捨てた。
「敵……」
今まで、数え切れないほどの「敵」を排除してきた。
敵はすべて「人」であり、命を奪ってきたのだということは、ちゃんと理解している。
初めて敵を斃したとき、人を殺してしまったという罪悪感で震えた。
しかし、それはすぐに、任務を完遂した充足感に掻き消された。こんなふうに、パイロットスーツを脱ぎ、自室に戻った後まで引き摺ったことはなかった。
「だって、昨日までは──」
「その弱さはいつか、お前を殺す」
レイの鋭い光を放つ双眸が、シンをとらえる。
シンは音が鳴るほど強く奥歯を噛み、未だ震えの残る指先を、手の甲にきつく食い込ませた。
「──ああっ!ちくしょう!!」
シンは叫び、立ち上がると、大股でレイの傍らをすり抜けて扉の前に立った。
「どこへ行く?」
レイの問いかけに、
「……アタマ、冷やしてくる」
扉を見つめたまま呟いて、電子ロックを解除したシンは部屋を飛び出した。
足は自然に、ルナマリアの個室へ向かった。
呼び出しを押そうとして、躊躇った。ルナマリアは、きっと、泣いている。
(彼女を、慰めることができるのか?妹の命を奪った、このオレが?)
手を引っ込めて、扉の前から去ろうと横を向いたその時だった。
通路の向こうから、段ボール箱を大切そうに抱えたルナマリアがゆっくりとこちらへ歩いてくる。目が合うと、彼女は、今にも泣き出しそうな顔に笑みをつくった。
押し黙ったまま立ち尽くすシンに、ルナマリアは、
「メイリンの私物を、取りに行ってたの。……入って」
言いながら、部屋のロックを解除した。促されるままに、シンは彼女の部屋に足を踏み入れた。
彼女は部屋の明かりを消したまま、ベッド脇のサイドテーブルに手を伸ばし、丸い、たまごの形をしたランプを点けた。やわらかな橙色の光が、室内を照らす。
シンの怪訝な表情に気付いた彼女は、
「ごめん。今、明るい場所にいたくないのよ」
そう言って、また、泣きそうな顔で無理やり笑おうとした。
ルナマリアは、室内に二つある内の空いたベッドの上に抱いていた箱をそっとおろす。
「荷物、意外と少なかったのよ。あの子のことだから……、もっと……」
ルナマリアは両手で顔を覆い、啜り泣く。シンは、肩を震わせて泣く彼女を優しく抱いた。
「ルナ……ごめん……」
彼女の耳元で呟いた声は、驚くほどに掠れていた。
「任務、だったんだもの」
ルナマリアは、小刻みに上下するシンの背中に手を回して、母親が子供をあやすように軽く叩く。
お互いの頬を合わせると、混ざりあった涙が顎を伝い、首筋に流れた。
「……疲れちゃった」
しばらく抱き合った後、ルナマリアは溜息とともに言葉を吐き出す。
「そっか。じゃあ、オレ、戻るよ」
身体を離そうとするシンの胸元に縋りつくように顔を埋めたルナマリアは、背中にまわした腕に更に力を込めた。
「ひとりに、しないで」
「ルナ……?」
「眠るまで、一緒にいて」
シンは返事をする代わりに、彼女の柔らかい髪をそっと撫でた。
「着替えたいから、後ろ、向いて」
ルナマリアは、シンの胸を軽く押して身体を離し、疲れの滲む足取りで個室の奥にあるクローゼットへ向かう。
シンは、彼女に背中を向けて、シーツの掛かっていないベッドの隅で寂しく佇む茶色い箱に視線を落とした。
歩み寄り、指先で箱にそっと触れた。古ぼけたそれは、ざらつき、冷えていた。軍服を脱ぐルナマリアの気配を背中で感じながら、シンは目を閉じて、拳を強く握った。
「いいよ」
言われて振り返ると、ルナマリアはブランケットを鼻のあたりまで引き上げ、身体を丸めてベッドに横たわっていた。
シンは横向きに寝るルナマリアの傍らに腰を下ろし、ブランケットの下から差し出された彼女の手を握り、腿に乗せた。腰に彼女の身体が巻きつくように触れ、握られていない左腕は、シンの腹のあたりに絡みつく。
シンは、上体をルナマリアの身体に凭せ掛け、右手で彼女の髪を優しく梳いて、頭の後ろから、首の付け根、ブランケット越しの背中を撫でた。
ルナマリアは小さく息を吐き、目を閉じた。やわらかなランプの光は、彼女の頬に睫毛の影を落とす。
睫毛には、まだ、小さな雫が残っていた。シンは指先で拭ったそれを口元に運び、舌先で舐め取った。
「なにやってんのよ、もう」
ルナマリアはシンを見上げて、呆れた声を漏らした。
「見たな」
おどけたつもりだったが、響いた声は低く、深く、未だ涙が滲んでいた。
シンは、ルナマリアの口元を覆うブランケットを指でつまみ、そっとずらした。露わになった、紅潮した頬を掌で優しく撫でる。腹に絡みついていた彼女の腕に、微かに力がこもっていくのを感じた。
あたたかい……。
このぬくもりに縋りたい。シンは大きく息を吐き、頬に触れていた手を彼女の頭の後ろについて、ゆっくりと体の重さをそちらに移し、涙で濡れた頬に唇を這わせた。
「シ、ン?」
名前を呼ぶルナマリアの声が、弱々しく揺らぐ。
「ごめん」
シンは、顔を近づけたまま詫びた。
ルナマリアは、シンの腹のあたりを抱いていた左腕を解き、躊躇いに震える指でシンの頬の輪郭をなぞる。視線を合わせ、問いかけるように首を傾けると、彼女は黙ったまま、そっと目を閉じた。
シンは、ゆっくりとルナマリアの唇に自分の唇を重ねた。包みこみ、優しく、軽く吸うと、閉じられていた唇が甘い吐息とともに開いてくる。シンは、その隙間から舌を忍び込ませて、奥に潜んでいる彼女の舌先に軽く触れた。
遠慮がちに舌を絡めながら、ルナマリアは、シンの軍服の胸元を緩めた。胸のあたりに痞えていた息が抜け、ようやくまともに呼吸できたような気がして、シンは深く息を吸った。 もぞもぞと足を動かして、履いていたブーツを脱ぎ捨てる。ブーツに気を取られている間に、シンの軍服の前釦はすべて外されていた。
唇を離し、上体を起こして上着を脱ぎ、ベッドの下に落とした。
シンは、そろそろとベッドの上を移動して、仰向けに横たわるルナマリアの顔の傍に両手をつき、彼女の顔を見下ろした。
ルナマリアは、下から両腕を伸ばし、シンの首に絡める。それを合図に、シンは再び、彼女の唇の柔らかさを堪能した。
唇の隙間を探しあてて呼吸しようとするルナマリアの先回りをするように、唇を重ねる角度と舌を差し入れる深さをかえてその隙間を塞いでいく。シンは、涙の味がする彼女の口のなかを、余すところなく舐め上げた。
「……あっ、ん……ふっ……」
ルナマリアは目尻に涙を浮かべ、眉根を寄せて顔を左右に振り、ようやくシンの唇の拘束から逃れた。
「苦しい、よ」
呼吸を整えながら、ルナマリアは、シンの濡れた唇を指で拭う。シンは、唇に触れる彼女の指を口に含み、第一関節のあたりに軽く歯を立てて、指の腹を舌でくすぐった。
「──やっ」
ルナマリアが小さな悲鳴を上げて指を引き抜くと、しんとした室内に潤んだ音が大きく響いた。
シンは、二人の間を隔てるブランケットを剥ぎ取り、身体を密着させて、彼女の項へ顔を埋める。
覆い被さるシンの身体を、ルナマリアは腕に力を込めて受け入れた。彼女の耳を甘噛みしながら、耳のうしろの匂いを鼻腔に満たす。それは、かつての幸せだった日々を思い起こさせるほどに甘く、切ない香りだった。
色白の首筋に唇と舌を這わせながら、軍支給のインナーの上から、ルナマリアの豊かな乳房に触れた。
やわらかなそれは、シンの手の動きに合わせて形をかえ、揺れる。つんと尖った先端を布越しにつまむと、ルナマリアは、シンの首に絡ませた両腕に更に力を込めた。
インナーをたくし上げて、滑らかな肌に、直に触れる。ふっくらとした腹部から乳房までを撫で上げると、ルナマリアは溜息とともに腰を浮かせて、身を捩った。
シンは、三度ほど頭を振って首を抱く彼女の腕を外し、身体を離す。たくし上げられて、鎖骨のあたりでくしゃくしゃになったインナーを脱がせ、履いていたショートパンツを下着ごと一気に剥ぎ取った。
初めて目の当たりにしたルナマリアの軍服の下の姿に、シンは眩暈を覚えた。
ルナマリアは両腕で胸を隠す。体の向きを横に変え、膝を胸元に寄せて、身体をちいさく、まるく折りたたんだ。シンは彼女の肩口を撫で、着ていたインナーと軍服を下着ごと脱ぎ、ベッドの下に落とした。
ルナマリアの背中に触れながら、横向きに寝る彼女と向かい合ってベッドに横たわる。髪を梳き、頬に触れると、シンの手を追いかけるように彼女の手が動き、細い首に触れる前に重なり合った。指を絡めて、再びキスをする。舌を絡め合ううちに、閉じていた彼女の身体が少しずつひらき、お互いの距離が縮まった。
シンは、隙ができたルナマリアの、熱く湿った足の間に腿を滑り込ませて、身体を密着させ、劣情に満ちた己の中心を彼女の脚の付け根に押し当てた。彼女の脚が、戸惑いに揺れる。
身体が揺れるたびに、薄く、やわらかな叢が、彼女の股間に押し付けた腿に触れ、くすぐったい。
シンは、下のほうの腕をルナマリアの脇の下から背中へまわし、逃げられないように力を込めて抱く。空いた手で柔らかい乳房を揉みしだきながら、首を伸ばし、彼女の首筋に軽く歯を立てた。
「んっ……ん、ああ……っ」
耳に、ルナマリアの熱い吐息がかかり、シンの背中に震えが走る。どこまでも柔らかく、重い果実を弄ぶ手に力を込め、淡い色を点す先端を親指の腹で円を描くように撫でた。首筋から鎖骨を這い、胸元へ向かった舌先でもう一方の蕾を転がしながら口にふくむ。
「はぁ……っ、あ……あ、んっ」
弾力のある乳房を舌でじっくりと味わい尽くし、脇のほうへ流れたまあるい膨らみの柔らかさを堪能していた手を下へずらして、もう片方の乳房にキスを落とした。唇と、舌の表と裏を使って先端を思うさま弄んだあとに、脇の方の皮膚の薄いふくらみに軽く吸いつく。空いた右手で、ルナマリアの滑らかな背中から腰をゆっくりと撫で、その下にある、張りのある二つの丘を揉みしだいた。
ルナマリアの身体の奥から溢れ出た蜜が、シンの腿を湿らせていく。
「あっ……、いや……」
足の間の薄い叢をわけて指を差し入れると、ルナマリアは甘い声を上げ、シンの背中にしがみついた。温かな蜜を指で掬い、花びらを押し広げるように彼女の秘所を弄ぶ。
「あん……っ、……シ、ン」
シンは、ルナマリアの敏感な核を指の腹で押し潰すように撫でながら、彼女の足の間に差し入れた膝を立てて、閉じようとする彼女の足を上へ押し上げた。
したのほうから、猥らな水の音が響く。
ルナマリアの花蕊の入口を中指でなぞり、ゆっくりと根元まで埋めた。潤んだ粘膜が、ねっとりと指に絡みつく。彼女の反応を確かめながら、指を抜き差しして、なかの様子を探る。探索する指を人差し指と中指の二本に増やし、うえのほうのざらついた場所を指の腹で丁寧に擦りながら、先程の愛撫でぷっくりと膨れた核に親指を押し当てて、なかの動きに合わせて上下に滑らせた。
「ああっ……、シン……っ、だめ、ぇ」
ルナマリアは、腰を浮かせて仰け反る。シンは、露わになった白い喉に無茶苦茶に噛みついてやりたい衝動を、ようやく押さえた。
シンは、ルナマリアの下敷きになった己の左腕をそっと抜き、身体をくねらせて逃げようとする彼女の背中をベッドに押し付けて、動くたびに大きく揺れる色白の乳房から腰、太腿の裏を掌で優しく撫でた。
ひとつ息を吐き、花蕊に埋めていた指を抜いて、糸を引く人差し指と中指の間をべろりと舐める。
彼女のなかは、しょっぱい塩の味がした。
シンは、ルナマリアの膝の裏に手を入れて持ち上げ、膝を彼女の胸元へ近づける。
「いやっ。見ないで」
彼女の抵抗を無視して、シンは、脚を開かせて露わになった秘所に顔を埋めた。赤く膨らみ、いまにもはぜてしまいそうな核を唇で包み込み、舌先で転がす。
「あっ……、いやぁ……シン、あつ、い」
脚を閉じようと、腰をくねらせて抵抗を続ける彼女の身体を力で捩じ伏せて、敏感な部分を、舌の全体を使って舐め上げ、時々、強く吸い付いた。指を咥え込んでいた花蕊の入口は猥らにひくつき、蜜が止めどなく溢れ出る。留まりきれないそれは、ひくひくと小刻みに震えるお臀を伝い、シーツに灰色の湖をつくった。
「んっ……ぁああああ、ん……は、あん」
余裕をなくしたルナマリアの声と、腰の揺らめきと腿の後ろに滲む汗の気配に、彼女の頂がすぐそこまで近づいていることを感じ、シンは、剥き出しの核を吸っていた口を、音を立てて離した。
「ああ、ん」
彼女の洩らした声に、寸前で止められたことへの不満が滲む。
シンは、ルナマリアの脚を押さえつけていた力を緩め、昂った己のものを彼女の秘所に擦りつけて、蜜を絡めた。
「いい?」
視線を合わせ、上擦った声で問うと、ルナマリアは目を伏せて、
「入れて」
と、消えてしまいそうな声でねだった。
濡れそぼった入口に先端を押し当てて、ゆっくりと腰を進めていく。入口ちかくの微かな抵抗を抜けた先には、温かく、柔らかな空間が広がっていた。 彼女のなかの襞が、怒張したシンのものを包み込み、最奥へ誘う。
「あ……」
眉根を寄せて、ルナマリアは声を洩らした。
「平気?」
慣らすように、ゆっくりと腰を前後に動かしながら、問う。
「……ん」
彼女は小さく頷くと、シンへ向かって両手を伸ばした。
シンは、ルナマリアの膝裏を肩に乗せて、そのまま彼女の身体を折るように体の重さを移し、お互いの胸を合わせる。
「あっ、あん……はぁ……んっ」
深いところまで抉られて、ルナマリアは腰をくねらせながら、シンの首に縋りついた。シンは上から叩きつけるように早く、深く腰を進め、彼女のなかを抉る。触れ合う肌に滲む汗が混ざり合い、ふたりの身体の境界が曖昧になっていく錯覚に溺れてしまいそうになる。
シーツと背中の擦れる音、ふたりぶんの吐息と呻き、そして、繋がった部分から洩れる蜜の潤んだ響きが、殺風景な室内に満ちていく。
「シ、ン」
ルナマリアは、シンの名前を繰り返し呼んだ。呼ぶ声は次第に上擦り、切羽詰まっていく。
もっと繋がっていたい。このぬくもりに、いつまでも縋っていたい。
しかし、身体は徐々に終わりの高さへ向かい、加速しはじめていた。
「ああぁっ……だめ。もう……」
ルナマリアの背中が大きくしなり、目の前に曝けだされた喉元に、シンはきつく歯を立てた。
彼女のなかを探る角度を少しだけ変えて、先程、二本の指で撫で上げたざらついた場所を、熱く猛ったものの先端で強く抉る。
「やっ……、あっ、ぁああああ、っ……いや、ぁああっ」
ルナマリアは、うっすらと汗の滲んだシンの背中を強く抱き、高く上げた脚の内側に力を込めて、逃れられないように拘束し、猥らに腰をくねらせて繋がっている部分をシンの下腹に擦りつけた。
己の根元をにぎる律動で、彼女が昇りつめたことを知った。
ルナマリアの花蕊は、熱く、硬く膨れ上がったシンのものをきつく締め上げ、射精を促す。
「──っ。だめだ……もう。……ルナ」
背中に痺れがはしり、先端に熱が集中する。
ルナマリアの身体を抱く腕に力を込め、収縮する彼女の花蕊の最奥に脈打つ情欲の塊を捩じ込んで、びくびくと腹を痙攣させ、彼女のなかに熱い精を吐きだした。
ベッドに横たわり、夢と現実の間を、水平飛行する。
シンは、荒れた海に沈んでいく機体を、為すすべもなくただ見ていた。
夢なのか、記憶の再生か。あまりにもリアルで、シン自身、まだあの洋上に留まっているかのような錯覚に陥っていた。
強く目を瞑り、恐る恐る開く。見慣れた艦の天井が映り、シンは細く息を吐いた。
シンは、隣で眠るルナマリアを起こさないように、静かに上体を起こす。時計を見ると、午前二時を過ぎていた。レイはまだ、起きているだろうか?後頭部に鈍い痛みを感じ、シンは、首のうしろを軽く揉みほぐした。
隣で、身体をまるめ、横を向いて眠るルナマリアに視線を落とす。静かな寝息を立てる彼女の目頭には、涙の粒が光っていた。それは少しずつ重みを増し、零れて、シーツに小さな染みを残した。
シンは、彼女の鼻先に残る雫を、指先でそっと拭った。
ベッドの下に散らばった衣服を集め、袖を通す。ルナマリアのインナーもきれいにたたみ、彼女の枕元に置いた。
ランプの光が届かない薄闇の向こうに、メイリンの遺品を詰めた段ボールの箱がひっそりと佇んでいる。
シンは、ブーツを履いて箱の前に立ち、埃を被ってざらざらしているそれをそっと撫でて、蓋を押し上げた。
化粧品だろうか?中から立ち昇る甘い花の匂いが鼻腔をくすぐった。
使いかけの化粧水、桃色の艶やかな布地が貼り付けられたジュエリーボックス。見覚えのある衣服、時計。
箱の中は、メイリンが確かに生きていた証で溢れていた。
シンは遺品の傍らに力なく座り込み、両の手で頭を抱えて蹲った。
強く噛んだ唇の端から、嗚咽が漏れる。零れ落ちた涙を吸い込んで重みを増した軍服が、太腿に張り付いて気持ちが悪い。
夜が明けたら、また、争乱の日々がはじまる。
生き残ったものは、奪ったものの重さを背負って前に進まなければならない。
今だけ──今だけでいい。
立ち止まることを、許してください。
シンは唇の拘束を解き、喘ぐように呼吸した。
了[2007/10/21]
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