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朝──たったひとり取り残されたベッドを抜け出て、カーテンを開けた。
昨夜、2度目のエクスタシーに身を震わせた後に降り始めた雨は、いつの間にか止んでいて、雲の隙間から零れる、柔らかな陽光に目を細めた。
レイは窓の桟に手を掛け、窓を開ける。大きく開け放たれた窓から流れ込む、雨の名残を纏った冷たい風が、3か月ぶりに抱き合えた歓びと、ふたりぶんの身体と体液の匂いを漂わせたベッドルームの、濃密な夜の気配を薄めていく。
乱れたシーツとブランケットを整え、身支度を済ませてリビングへ向かうと、ソファに座り、情報端末を右腿に乗せたまま、うたた寝をするシンの姿が目に飛び込んできた。
レイは足音を忍ばせてシンの傍らへ歩み寄り、今にもずり落ちてしまいそうな端末をそっと取り上げ、ローテーブルの上に置く。
「……仕事を家に持ち込むとは、珍しいな」
呟きながら、ソファの背もたれに後頭部を付けて、天井を仰ぐような姿勢で眠るシンの方へ向き直る。大きく開かれている太腿の間に出来たスペースに膝を乗せて、慎重に身体の重さを預けていくと、革製のソファが微かな悲鳴を上げた。
レイは、前の晩に、どれほど乱れても、燃え尽きても、休日の朝だけは無駄に早起きをする同居人の間抜けな寝顔を見下ろす。
「昔は、昼まで寝ていたくせに」
ふっ、と小さく息を吐いて笑い、日の光を受けて艶めいている黒髪に鼻先を寄せた。シンの髪からは、いつも日なたの匂いが立ちのぼってくる。どこか懐かしさを感じさせる匂いを鼻腔に満たし、ぽっかり開いた彼の口を唇で塞ごうと、レイは、ゆっくりと顔を近付けていく。
頬に掛かる髪がはらりと落ちて、シンの鼻先をくすぐった、その時──顔に触れたくすぐったいものを払い除けようと動いた手に、強く頭を叩かれて、レイは呻き声を上げた。
「……あれ?……レイ?……あ…もしかして、引っぱたいた?ごめん」
目を覚ましたシンは、手が触れていた場所を優しく撫でて、上目遣いにレイの顔を覗きこむ。
「……寝ているお前にちょっかいを出して叩かれたのは、2度目だな」
「2度目って……。1度攻撃されたら、警戒しろよ。……オレは悪くないからな」
「ああ。お前は悪くない」
呟きながら、レイはシンの頬を撫で、僅かに身を屈めて彼の鼻のあたまに唇を寄せ、触れるか触れないかの距離を保ったまま、微かに笑う。焦れたシンは首を伸ばし、レイの唇に強く吸い付いて軽く歯を立てた。
「ん……っ」
閉じていた唇を、厚みのある舌で無理矢理抉じ開けられて、レイは鼻から息を抜く。欲しいものをただ貪欲に求めるシンの動きに翻弄されるのも、悪くはない。いや。むしろ、もっと翻弄して欲しいとさえ思う。
眉根を寄せて、彼の求めに応じるように、呼吸を合わせ、舌を絡めた。潤んだ音を響かせて擦れ合う粘膜から彼の熱が流れ込み、頬が紅潮していくのがわかる。
シンは両腕をレイの背中に回して、力まかせに抱き寄せた。バランスを崩したレイは、咄嗟に、シンの首に縋り付くように腕を絡める。
濡れた音と鼻を抜ける甘い声が、風に吹かれて揺れる木々のざわめきの方へ吸い寄せられて、消えていく。
小さな音を立てて唇を離し、視線を合わせ、ふたり、ほとんど同時に吹き出すように笑った。照れが先走り、ずっと前に二人で見た映画のワンシーンのような、深いキスを交わした後に見つめ合い、"愛している"と目で語りながら微笑むという芸当は、まだ出来そうにない。
「……レイ」
シンは、レイの背中に手を回したまま、顔を傾けて名前を呼んだ。
「何だ?おねだりか?」
「うん。膝枕してくれ」
「断る」
「なんで?」
「男の硬い太腿を枕にして、何が楽しい?」
「じゃあ、ケツ枕」
「却下」
「それなら、このまま寝る」
再び、腕に力をこめてレイの身体を抱き寄せ、首筋に顔を埋めるシンの襟髪に指を絡ませながら、深い溜息をついた。
「ピアノを弾きたいのだが……」
「だめ。膝枕してくれるまで離さないからな」
「……仕方がない……来い」
「うん」
ひとつ溜息をつき、身体を離してソファの隅に座りなおす。左腿を軽く叩くと、シンは散歩を期待する犬のように目を輝かせて、勢い良く寝転がった。
「忙しいのか?」
レイは、シンの額を覆う長めの前髪をそっと後ろへ流しながら、問いかける。
「え?……ああ、あれ?新型モビルスーツの資料を確認してたんだ。……レイの機体も見たよ。ドラグーンシステム?凄いよな、あれ……目と頭がごちゃごちゃになりそう。オレだったら、確実に、”イーッ!”ってなる」
「慣れたら、そうでもないぞ。……それに、あれは改良型だからな。誰にでも操作できるようにしてあるらしい」
「”ある一定以上の能力を持った奴なら誰でも”ってことだろ?……そんな奴なんて、軍内でも、ほんの一握りだ」
シンは微かに笑い、手を伸ばして、レイの頬に掛かる髪をそっと梳いた。
「核動力だってさ」
「ああ」
「キナ臭くて、嫌だな」
「そうだな。あれで戦う日が、来ないことを祈る……」
「うん」
シンの指の間から零れた髪が、再び頬をくすぐる。
「レイ……」
シンは、まるで猫を呼び寄せるかのように、唇を尖らせて舌を鳴らした。
レイは小さく頷き、シンの顔に髪が落ちないように手で押さえて、柔らかな粘膜で彼の唇を包み込み、軽く吸った。
「レイの唇、気持ちいい。唇だけじゃない……肌も、全部。オレたちの身体の相性、凄くいいと思うんだ。……触ってるだけでイけそう……初めてなんだ…こんなの──って言っても、オレ、それほど経験してないんだけどさ」
シンは、レイの頬にそっと触れて、呟いた。
「相性……?そうなのか?」
鼻のあたまを寄せ合ったまま、レイは問う。
「そう思ってるの……オレだけかよ。ちょっと、寂しいな」
「違う……俺だって、同じ気持ちだ。……だが、これが当たり前のことなのか…特別なことなのか、わからないんだ──」
言いながら、レイはゆっくりと上体を起こし、「訳が分からない」と言いたそうに首を傾げるシンの顔を見て、少しだけ困ったように笑った。
「──お前の肌以外、俺は知らないからな……」
そう言うと、
「へっ?」
シンは素っ頓狂な声を上げて、目を大きく見開いた。
「……ちょ…っ、と待って……。えー……っと……レイは、オレが初めての相手だったって、こと?」
シンの問いに、レイは小さく頷く。
「嘘……。だって、あんなに手慣れてたのに……?。もしかして……イメージトレーニングの賜物…ってやつ……?」
「妙な言い回しをするな!」
少しずつ、顔に熱が集まってくるのが分かる。
「……オレ、レイは、かなりの人数こなしてるんだって、勝手にそう思ってた。その……余裕たっぷりに見えて……すごく……巧かったから。……やっぱり、お前って…何でも器用にこなすんだな」
「煩い!……黙れ」
呆気にとられた表情を浮かべながら感心したように言うシンから顔を背けて、レイは、言うのではなかったと悔やみ、顔に集中した熱を逃がすように深い溜息をついた。
「なあ、レイ……」
「何だ?」
「お前、相当モテるのに……女の子に……その……興味なかったのか?」
「その話をするのも、二度目だ……本当に、憶えていないんだな……」
「何を?」
「……忘れないと、言ったくせに」
「いつ?」
「……誰が…教えるものか」
「なんだよ。拗ねるなよ」
「拗ねてなどいない」
そっぽを向いて、吐き捨てるように言うと、下から、縋るように伸びてきたシンの手に頬を包み込まれて、レイは顎を上げたまま、視線だけを彼の顔に落とした。
「拗ねてるじゃんか。……しかも、カオ、すっげぇ怖ぇし……」
言いながら、シンはゆっくりと上体を起こして、レイの方へ向き直り、柔らかな唇を頬に押し当てる。
些細なことで苛立ったり、思わず顔を綻ばせたり……シンと生活を共にするようになってから、少しずつ、表に出てしまう感情が多くなったように思える。感情の振れ幅が大きい彼の影響を受けてしまっているからだろうか?
レイは、シンの頭のうしろにそっと触れ、彼の唇の端っこにキスをする。
「……憶えてないってことは……あの時…だよなぁ……」
シンは小さく息を吐き、呟いた。
「さあな」
ふんと鼻を鳴らし、唇の端を微かに上げる。シンは、機嫌を伺うように、鼻のあたまをレイの鼻先に擦り寄せた。本当に、犬のような奴だ──頬を弛めて小さく吹き出し、シンの頬に触れると、彼は安心したように笑い、微かに触れ合っていた唇を強く押し付けた。
強い風が吹き、庭園の木々が、ざあっと音を立てて揺れる。
しだいに深く差し入れられる彼の舌の、つるりとした裏側を舌先でなぞりながら、目を閉じて、激しくなっていくざわめきに耳を傾けた。
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