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地上勤務のレイから、手紙が届いた。
何の変哲もない近況報告だけの手紙は、
───地球の、プラントとは違う気紛れな天気、本物の空と海の色は、地上で生活したことのない俺でさえ、美しく、懐かしいと感じた。お前の故郷は、もっと美しい場所なのだろうな───
という一文で締め括られていた。
彼が書いた、癖のない文字を眺めているうちに、妙に落ち着かない気分になった。それは、そわそわとした、地に足の付かない、とても懐かしい気持ちだった。
会いたいと思った──会って、初めて身体を重ねたあの日から、自分の中に根を下ろしかけている気持ちの正体を確かめたいと、思った。しかし、それと同時に、漠然とした不安が胸をよぎる。
その夜、レイの夢を見た。
息遣いや、肌の熱さ、耳の底に響く声があまりにもリアル過ぎて、目を覚ますのと同時に己の中の情欲を放出し、シンはベッドの上で頭を抱え、ひどい自己嫌悪に陥った。
手紙を受け取ってから3日後、マハムール基地駐留期限を迎えるバレル隊と交代するために、アスカ隊は、プラントから地上へ降下する。
移送艦の中で、シンは、落ち着かない気持ちを抑えるように目を閉じ、そっと息を吐いた。
マハムール基地は、地球連合軍のスエズ基地と地理的に近く、ザフト、地球連合両軍の睨み合いの最前線となっていた。
完全に融和することができないナチュラルとコーディネーターの、根深い部分での確執の象徴のような場所であり、たとえ表面上は穏やかであっても、双方が歩み寄るには課題が山積しており、一時も気を許すことができないのが現状だった。
敵ではない、かといって、味方でもない。
一触即発の関係の上で成り立っている現状の、危うい均衡を保つために、両軍ともに選り抜きの部隊を配置し、いつ終わるとも知れない睨み合いを続けている。
軍にとって重要なこの場所への駐留命令を貰えるとは、認められたものだなと、シンは微かに唇の端を上げた。
着任し、半日掛けてようやく、バレル隊との引き継ぎを終えた。その最中に3度、ぼんやりするなとレイが声を荒げ、シンは視線を逸らしたまま詫びた。視界の隅でお互いの存在を意識してはいたけれど、真っすぐに彼の顔を見ることができなくなってしまっていることに、シンは焦りと戸惑いを感じていた。
夜、基地内の宿舎の個室に入り、荷物を床に投げ出して、ブーツを履いたままベッドにごろりと寝転がる。
あの夜、ひとしきり抱き合った後、二人は無言のまま別れた。妙に気恥しかったのと、それと同時に、レイとの間に、今まで築き上げてきたものが崩れ去ってしまうかもしれないという不安に駆られ、言葉を発することさえ出来なくなってしまったのだ。
ぼんやりと天井を眺めていたシンは、大きく息を吐いて身体を起こし、ゆっくりと立ち上がった。
自室を出て、しんと静まり返った長い廊下を歩き、レイの個室の呼び出しを押す。
「オレ。……ちょっと、話したいんだけど、いいか?」
上擦り気味の声で要件を伝えると、短い返事の後に扉が開いた。
「どうした?」
上下共にインナーウェア姿のレイが、濡れた髪をバスタオルで乱暴に拭いながら問いかける。相部屋だった頃に散々見てきた姿を、今日は真っすぐに見ることができずに、シンは、また、彼から視線を外した。
重い足取りで室内へ入り、レイと向かい合う。背後で、圧搾空気を解放しながら扉の閉まる音が、やけに大きく響いた。
「……何の用だ?」
レイはバスタオルを被ったまま首を傾げ、威圧的な双眸をシンへ向ける。
「ええと……その……。この間、なんで、メールじゃなくて、手紙をくれたのかな…って」
シンは、レイの胸元あたりで視線を彷徨わせながら呟く。
「さあ……何となく、書きたくなった」
「そっか……」
「用事は、それだけか?」
突き放すような口調で訊かれて、シンは、上目遣いにレイを見た。ふいに、もう一度彼に触れたいという欲望が首を擡げる。しかし、今、彼に触れてしまったら、後戻りできなくなるかもしれない。そんな予感が胸をよぎり、シンは乾いた唇をそっと舐めた。
このまま、あの夜に、胸の奥の方に灯ってしまった奇妙な感情のことには一切触れず、何もなかったことにするのが、一番良い方法なのかもしれない。もしかしたら、レイも同じことを考えていて、距離を保とうとしているのかもしれない。
けれど──シンは、大きく息を吸い、ゆっくりと吐いた。
「会いた…かったんだ。オレ、この半年間ずっと……レイに……。あの夜から、ずっと胸がざわついていて……それで……」
胸の奥の、もっと深い場所から零れ出ようとする想いを、もう、堰き止めることは出来なかった。シンは俯き、眉根を寄せて、そっと目を伏せる。
「そのざわつきの正体を、確かめたくなった、というところか」
レイは低く呟いて、小さく息を吐いた。
「ああ」
シンは頷いた。二人の間に重く流れる耐えがたい沈黙に、逃げ出してしまいたくなる。
「もう一度、してみるか?──今度は、素面で」
「──え?」
シンは顔を上げ、さらりと、とんでもない発言をしたレイの顔を呆気にとられた表情で見つめた。
「……冗談だ。素面で男など抱けるはずもない……。そうだろう?」
レイは苦笑いを浮かべて、同意を求めるように顔を傾ける。シンは、彼から目を逸らし、首の後ろを軽く掻いた。
「なぜ、黙る?……正気か?」
問われて、シンは押し黙ったまま、小さく頷く。
レイはそっと息を吐き、シンの胸に掌をあてて、軽く押した。
「……シャワーを、浴びてこい」
言いながら、レイはベッドの端に腰を下ろし、頭から被ったバスタオルで顔を隠すように、髪を拭いた。
「……うん」
シンはレイに背中を向けて、バスルームへ向かう。小さな洗面台と洗濯機が据えられている、狭い洗面所に入り、衣服を脱ぎ、まだ温かいバスルームの濡れた床に足をつけて、薄い扉を後ろ手で閉める。サーモスタット付きのコックをひねり、シャワーヘッドから迸る湯を頭から被った。
レイを抱いて、その後、どうなる?──シンは激しく鳴る心臓の上を拳で軽く叩く。友としてのレイを永遠に失ってしまうかもしれないという恐ろしさに、息が震える。
ふいに、薄い扉の向こうに人の気配を感じ、シンは、半透明のアクリル板越しに微かに見える人影に視線を向けた。
洗面台の前に立ったレイは、ドライヤーのスイッチを入れて髪を乾かし始める。シンはそっと息を吐き、その音を聞きながら髪を洗い、泡を流した。
ドライヤーのモーター音が止まり、バスルームの薄い扉を叩くような気配を感じて、シンは、コックをひねり、シャワーを止めた。腰にタオルを巻き、僅かに硬くなりかけていたものを隠す。
扉に手を掛け、軽く引く。真ん中で折れて開いた扉の前に、レイが立っていた。
「どうした?」
顎の先から温い湯を滴らせて、シンは問う。
レイ?──口を開きかけたその時、伸びてきた手がシンの後頭部をがっちりと固定し、お互いの唇がぶつかりあった。
唇の隙間から荒々しく捩じ込まれたレイの舌が、シンの口の中を蹂躙する。舌の裏や上顎を舐め回されて、シンの鼻から、甘い声が抜けた。
目を開けたまま、レイがシンを拘束するのと同じように彼の後頭部に手を回し、厚みのある舌を強く吸った。レイは苦しそうに眉根を寄せて、頭を軽く振る。シンは、レイの後頭部に添えた手に力を込めて、逃げようとする彼の動きを封じた。舌と舌とを激しく絡め合うと、ふたりぶんの甘い吐息と潤んだ水音が、バスルームの中に大きく響いた。
濡れた音を立てて、唇を離す。シンの頭に触れていたレイの手が力なく落ち、大きく見開かれた青い目が揺れる。
「すぐに行くから、待ってて」
シンは、荒れた呼吸を整えながら言い、濡れた手で、茫然と立ち尽くすレイの頬を撫でる。レイは、我に返ったように肩を震わせ、シンの手を振り払い、勢いよく扉を閉めた。
閉じていく扉の隙間から、真っ赤になったレイの顔がちらりと見えたのは、決して、気のせいなんかではなかった。
「やべ……ぇ」
完全に、落ちていく──シンはコックをひねり、シャワーヘッドから勢いよく迸る湯を被った。柔らかな感触が残る唇をそっと舐めると、まるで耳元に心臓が移動してきたみたいに、鼓動が大きく響く。
レイを失うのも、寄り添うのも、いずれにせよ棘の道だ。それならば、ふたり、行き着くところまで突っ走ってみるのもいいかもしれない。
シンは、丁寧に身体を洗い清めて、細く息を吐いた。
身支度を済ませて濡れた髪を乾かし、ブーツを小脇に抱え、脱いだ軍服を肩に引っ掛けて部屋に戻ると、室内の照明は既に落とされていた。入口付近でほの白く光る常夜灯を頼りに、室内を歩く。
薄闇にまだ慣れていない目で室内の様子を窺うと、レイはこちらに背中を向けて、ベッドに横たわっていた。
シンは、椅子の背に軍服を掛け、足元にブーツを落として、ベッドの端に腰を下ろす。
「レイ」
身体を捩り、レイの背中を見つめながら、そっと彼の名前を呼んだ。応答はない。
「疲れてる?嫌だったら、無理……すんなよ」
シンは恐る恐る手を伸ばしてレイの柔らかい髪に触れ、口元に笑みをつくり、呟いた。
「……嫌ならば、はじめから、あんなことはしない」
「レイ?」
レイはゆっくりと寝返りをうって仰向けになり、シンの顔を見上げた。
「本当に、覚えていないのか?」
ようやく聞き取ることが出来るくらいに小さな声で、レイは問う。
「……何を?」
「なぜ、あんなことになったのか──」
「全然、覚えてない。……本当に、ベッドの上で正気に戻るまでの間のことは、何も……。もしかしたら、オレが、その……やっちゃったのかな…って」
「……違う。お前じゃない──……仕掛けたのは……俺だ」
「え?」
「さっきのように……半ば、衝動的に……」
「お前……覚えてないって、言ってた、よな?」
「……すまない」
レイの微かに掠れた声が、張りつめていた闇の中に溶けていく。
「そう、か……」
藍色の闇にようやく目が慣れて、レイの僅かな表情の変化を感じ取ることができる。眉根を寄せて、慎妙な面持ちで視線を背けるレイが、あまりにも"らしくなく"て、シンは、ふつふつと湧き上がる、彼を滅茶苦茶に抱き締めたいという衝動をようやく押さえた。
シンは、そろりとベッドの上を移動して、レイの隣に身体を滑り込ませる。レイと向かい合うように横向きに寝て、枕に頭を乗せ、至近距離から彼の顔を見つめた。頬に掛かる髪をそっと払いのけると、レイは、くすぐったそうに首を竦める。ふいに、耳のあたりに硬いものが当たったような気がして、シンは、枕の下に手を忍ばせ、指先に触れた筒状のものの正体を察し、小さく吹き出すように笑った。
「オレが上で、いい?」
レイの頬に触れながら問いかけると、
「構わない」
レイは小さな声で答えて、シンのインナーウェアの袖を軽く掴んだ。シンは、枕とレイの首の隙間に、身体の下敷きになっていた左腕を差し入れ、彼の肩へ手をまわす。薄く目を開けたまま顔を近付け、彼の鼻先に唇を寄せた。
「目、閉じろよ」
シンは、ぼんやりとこちらへ向けられた空色の目を、右手でそっと塞ぐ。
鼻のあたまに軽くキスをして、目を覆っていた手を退け、閉じた瞼と、髪と同じ色の睫毛を舌先でぺろりと舐めた。
「照明……点けてもいい?離れると、レイの顔も身体も、よく見えないから」
「ああ……」
薄く目を開けたレイは僅かに上体を起こし、シンの身体に覆い被さるようにしてヘッドボードを探り、照明のスイッチを入れる。ヘッドボードの隅で灯った、レイの髪とほとんど同じ色の柔らかな光の中に、見たことのない表情を張り付けた彼の顔が浮かび上がる。シンは、さらさらと落ちてくるレイの髪を両手で梳き上げた。シンを見下ろしていたレイの顔が、徐々に近付いてくる。胸を圧迫する、彼の身体の重さが心地良い。お互いの唇が触れ合うその瞬間に、シンはそっと目を閉じた。
「ん…っ……」
レイの頬を両手で包み込み、柔らかな唇と厚みのある舌を夢中で貪る。呼吸をすることさえ忘れていて、頭の芯が、じんと痺れた。
「だめだ……」
唇を離し、シンは溜息と共に言葉を吐き出す。
「やはり、気の迷いだったか?」
シンを見下ろしたレイは、唇の端を微かに歪めた。
「違う……──レイを、滅茶苦茶にしたい。もう、我慢……できない」
荒い息を吐きながら、シンは、レイの首に、しがみつくように腕を回す。
「嫌われるとか、そういった類の心配なら無用だ……。お前の好きなように抱けば良い……抱いて、欲しい」
レイからの"許し"を得て、シンの中の何かがぷっつりと切れ、体勢を逆転させ、彼の背中をシーツに押し付けて、引き裂かんばかりの勢いで自分と彼のインナーウェアと下着を剥ぎ取って一糸纏わぬ姿となり、肌を擦りつけ合う。彼の首に纏いつく髪を払いのけることなく、熱を持ち、微かに脈打つ首筋にむしゃぶりついた。毛先を舌に絡ませながら、音を立てて皮膚を吸うと、レイは逃げるような仕草で肩を聳やかす。
「くすぐったい?」
耳元で囁くように問うと、レイは小さく頷いた。
「じゃあ、ここは?」
シンは、プラチナブロンドを鼻先で押し分けてレイの耳を探りあて、唇の内側の柔らかく湿った部分と舌の先を使い、丁寧に愛撫する。シンの肩を押しながら身を捩るレイの熱く湿った吐息が耳を掠め、シンの中のひどく嗜虐的な部分をくすぐった。
もう片方の耳を軽く噛み、気が済むまで舐め回し、口を離す頃には、下腹部にあたっているレイのものは熱を持ち、硬く反り返っていた。シンはゆるりと顔を上げ、頬を紅潮させて荒く息を吐くレイを見つめながら、手を船底の形にして、硬くなった彼の中心を包み込み、そっと上下に動かした。肩に触れていたレイの手が、シンの胸と腹を撫で、下の方へ向かう。そして、シンの中心をそっと掴み、優しく扱いた。
視線を合わせ、唇を重ねる。舌を絡めながら、ゆるく握っていたお互いのものの先端を擦り付けると、断続的に訪れる快感に、腰のあたりが引き攣れ、お尻がきゅっと締まる。
レイの腰を強く抱き、先走っていた粘液を潤滑油にして上下に擦り合わせ、夢中で甘い痺れを貪った。
唇から顎へ、顎の先から喉を通って鎖骨のくぼみへ唇と舌を這わせ、左手の掌でレイの胸元を撫で、指先で尖端を摘む。親指の腹でそれをこねくり回しながら、もう片方の、色素の薄い尖端を口に含んで強く吸い、乱暴に舌先で転がすと、頭の上のほうで、甘い吐息が洩れる気配がした。
「お前の触り方は…荒々しいな……」
小刻みに息を吐きながら、レイは呟く。
「ごめん、痛かったか?」
シンは、ぷっくりと膨れた突起から口を離し、顔を上げてレイを見た。
「いや。もっと、強くしてくれても構わない……俺は頑丈に出来ているからな……だから…もっと……」
「ずいぶん、テンションが上がってるんだな」
「らしくない、か?」
「いや……そのポーカーフェイスの下のカオを、だいぶ掴めてきたから……もっと、煽って欲しかったりする」
「例えば?」
「例えば……そうだな……俺を壊してくれ、とか」
「ならば、これはどうだ?……────」
レイはシンの頭を胸に抱き、背中を丸めて耳元に唇を寄せ、低く、甘く囁く。
「ああ……それだけで、オレ……イケそう……」
シンは、ふうっと息を吐いて笑い、レイの唇に軽くキスをした。手を伸ばし、枕の下から、ローションの瓶と避妊具の小さな包みを取り出した。蓋を開けて、とろりとした液体をたっぷりと手に落とし、指に絡める。
レイの脚を開かせ、まだ冷たいぬめりを彼の後ろの腔に塗りつけて、馴染ませるように指先を動かしながら、引き締まった腹の筋に舌を這わせる。戯れに、脇腹を軽く噛むと、レイの腰がびくりと跳ねた。
シンは、レイの片足を肩に担ぎ、空いた手で、張りつめた彼の欲望の塊を軽く掴んで鼻先を寄せた。端正な顔立ちの奴は、下の方の形も整っているんだなとくだらない考えを巡らせながら口に含み、舌の全体を使って弄ぶ。
鼻から息を抜いて、身を捩るレイを追い立てるように根元を扱き、彼自身の形をなぞるように舌を這わせて舐め擦り、時々、強く吸いついた。同時に、露わになった彼の後ろの腔を、指の腹で円を描くように撫でて、十分に柔らかくなったところで、指先をゆっくりと彼の中へ侵入させた。指の根元まで挿入し、中を掻き回すように指を動かしていく。何度か抜き差しを繰り返し、頃合いを見計らって侵入させる指を増やした。
レイの呼吸が次第に浅く、速くなり、ひくついた入口の襞が、体内で蠢くシンの2本の指の根元を締め付けた。
「……シン…」
レイは、この先の行為を嘆願するように、荒い息と共にシンの名前を呼んだ。
「欲しい?」
「……ああ」
「正面がいい?それとも、後ろ?」
シンはゆるりと顔を上げ、肩に担いでいたレイの脚をベッドに下ろした。
「……上」
低く呟きながら、上体を起こしたレイは、シンの肩をそっと抱く。
「へっ?」
「──上、と言った」
不意をつかれ、あっさりと身体をひっくり返されて、シンは、ぽかんと口を開けたまま天井を眺めた。
レイはコンドームの封を切り、シンのものに装着して、腰を跨ぎ、状況を理解しきれていないシンを見下ろして微かに笑う。
「そういう、ことか」
シンは、ははっと声を上げて笑い、手を伸ばして、レイの太腿を軽く撫でた。レイは、硬く立ち上がったシンのものの根元を握り、先端を後ろの腔にあてがう。
「……ぁ…」
切なそうに眉根を寄せて、薄く開いた唇の隙間から小さな声を洩らし、慎重に腰を沈めていくレイの姿を、シンは息を呑んで見守った。
最も敏感になっている部分をすっぽりと、生温かくて柔らかな感触に包まれ、シンは目を細め、細く息を吐く。根元まで飲み込んだ後、レイは唇を軽く噛み、慣らすようにゆっくりと腰を揺らした。
「レイ……綺麗だ」
シンは溜息と共に言葉を吐き出し、レイの腰に手を添えて、彼の動きに合わせて自らの腰を突き上げるように進めた。
「それは……男への褒め言葉ではない。…ぁ…っ……だが、なぜだろうな……お前に言われると、悪い気はしない」
レイは目を細め、微かに笑った。シンは、レイの腰に添えていた手で、天井を仰ぐ彼の熱の塊をそっと掴み、先端に滲む粘液を指先に絡め、ゆっくりと扱いた。レイは、身体を後ろへ反らして腰をくねらせ、手の甲を唇に押し当てて荒くなっていく息を噛み殺す。
「あの夜のことが、忘れられなかった……ずっと」
シンは、押し寄せてくる快楽に背中を反らして耐えるレイの姿を見上げながら、呟く。
「……俺もだ……本当のことを言うと…今夜……お前が来てくれるのを待っていた」
「オレが部屋に入った時、あんなに、冷たかったくせに」
「実際にお前と対峙したら、どう反応したら良いのか……わからなくなった」
「そっか……」
シンは、肘を支えにして上体を起こし、身体を繋げたまま、レイと向かい合うように座った。レイの背中に手を回し、肩に頬を寄せて、彼のものを扱く手の動きを速めていく。
「だめ、だ」
レイは小さく呻いて、頂点へ誘うシンの手を掴み、動きを封じた。
「何で?」
シンは首を傾げて、レイの顔を覗き込む。
「そんなふうにされたら、すぐに達してしまう」
言いながらレイは、僅かに背中を丸め、シンの額に唇を寄せた。お互いの額をくっつけて、鼻のあたまを擦り寄せ、温かい吐息を絡める。
「なあ、レイ……オレに抱かれるのって、どんな気分?」
言葉を発するたびに微かに触れ合う唇の感触が心地良い。
「……妙な、安心感がある」
しばらく考えを巡らせた後、レイは含み笑いとともに答えた。
「へぇ……」
「お前は?」
「え?」
「お前は、俺に抱かれたいと思うか?」
「……興味はある…お前、優しくしてくれそうだし。けど…痛いのは嫌だ」
「そうか……」
「じゃあさ、レイは……オレを抱きたいと思う?」
「お前がそれを望んでくれるなら」
そう言って、レイは舌先でシンの唇にそっと触れた。悪戯を仕掛けるように動く彼の舌先を、シンは軽く噛む。
二人同時に小さく吹き出すように笑い、捕まえた舌を解放し、触れるだけのキスをして、シンは、レイの首筋に顔を埋めた。血管が微かに浮き上がった首の、軍服の襟に隠れる部分を強く吸い、赤い花びらを散らす。
「これで、しばらくは一緒にいられる」
「そうだな」
「オレにも、つけて」
シンが首を伸ばすと、レイは身を屈めて、そっと鎖骨の傍の皮膚を吸った。
シンの首筋から唇を離し、視線を合わせて微笑するレイの背中に手を回して、慎重に抱き上げ、ゆっくりとシーツの上に彼の身体を横たえる。
「レイ……」
「何だ?」
「これから、ずっと……友達以上の存在として……お前の傍に、いてもいいかな?」
「勿論だ」
「ありがとう」
シンは、レイの頬をそっと撫でて、笑った。
レイの腰の横に手を付き、ゆっくりと己の腰を引いて、埋めていた熱の塊を先端のぎりぎりまで引き抜き、また、緩慢な動作で彼の中に埋める。レイの様子を窺いながら焦らすようにそれを繰り返すと、彼の脚が、ねだるように腰に絡み付いてきた。
「なあ、レイ……」
「どうした?」
「オレのこと、欲しかった?」
「……ああ……」
「言って……レイ。欲しかったって……言って」
「……お前が…欲しかった。欲しくて、堪らなかった……シン」
「うん」
シンは、少しずつ、腰を進めるペースを速めていく。
レイの身体を揺さぶるたびに、一人用の狭いベッドが、ふたりぶんの重さに悲鳴を上げた。甘い吐息と結合した部分から洩れるいやらしく潤んだ水の音が、狭い個室の、ふたりだけの空間に溶けて、消えていく。
「ぁあっ……レイ…。レイの気持ち良いところ、教えて」
「もう……あたっている……。このまま……滅茶苦茶に、してくれ」
「わかった……」
荒い息を吐き出しながら、シンは、レイの脚を大きく開かせて、腹の上側の内壁を抉るように腰を進めた。
「はっ……ぁあああ、っ……シンッ」
同じ場所をしつこく責めると、レイは逃げるように身体を捩り、眉根を寄せて、声を上げる。
シーツを掴む手に、更に力がこもり、背中が弓なりに反っていく。レイの中に熱い楔を打ち込むたびに、軽く開かれた彼の口から甘い声が洩れた。
シンは、レイの両脚を肩に担ぎ、身体の重さを彼に預けて、上から叩きつけるように抜き差しを繰り返す。レイは縋るようにシンの腕を掴み、悲鳴に似た声を上げ、極限まで背中を反らし、身体を痙攣させた。ほんの少し力の抜けた彼のものの先端から、白く濁った粘液がとろとろと零れはじめ、鍛え上げられた腹を汚していく。
「レイ……もう、イ…きそ……」
シンは呻き声を上げ、薄く目を開けて、レイの顔を見下ろした。レイは苦しそうに眉をひそめ、薄く開いた唇の隙間から小刻みに息を吐く。強く握られた腕にレイの指が食い込んで、シンは思わず顔を歪めた。
レイがいちばん感じる場所を抉るたびに、彼は激しく頭を振り、白いシーツの上に、長いプラチナブロンドが乱れ散る。
「…ぁぁ…っ……レイ……レ、イ……」
シンは身体を沈めて、首を伸ばし、レイの頬に唇を這わせた。レイは荒い息を吐きながら身を捩り、シンの唇に、噛みつくようなキスを返した。
荒い吐息と共に乾いた舌を絡め合いながら、シンは激しく抽迭する。酸欠気味で頭の芯が痺れ、押し寄せてくる快感の波に、全身が震えた。
重なり合った唇の僅かな隙間から呻き声を洩らし、繋がった部分に下腹を擦り付け、レイの中に熱い精を吐き出した。びくびくと震える欲望の塊をレイの中に残したまま、彼の唇を貪る。レイは、シンの求めに応じてゆるやかに舌を動かしながら、快楽の余韻に震える身体を弛緩させた。
疲れ果てた身体をようやく起こし、後始末を済ませて、狭いベッドの上で身を寄せ合って横たわる。
シンは薄く目を開けて、放心しているレイの髪の毛先を指に絡めて弄んだ。
「楽しいか?」
レイは、笑いを滲ませた声で、問う。
「ああ。……柔らかくて、気持ちいいんだ」
呟いて、シンは、摘みあげた髪の毛の束をそっとレイの後ろへ流し、疲れ果てた様子の彼の身体を正面からそっと抱き、寝乱れたプラチナブロンドに頬を擦り寄せた。
「シン……」
吐息まじりの声で名前を呼ばれ、シンは、胸に抱いたレイの顔を覗き込む。
「心ごと……全て、持って行かれるとは……受け入れて貰えるとは…思わなかった」
言いながら、レイは困ったように眉根を寄せて、口元に微かな笑みを浮かべた。
「オレも……」
レイを抱く腕に力をこめて、首筋に顔を埋め、抱き合わなければ知らないままだった、すれ違う時に香るものとは別の、本当の彼の匂いを鼻腔に満たした。
夜が明けたら、また、離れ離れになる。
残された時間を惜しむように、お互いの肌の感触を記憶に焼き付けるように抱き締め合い、何度も、何度も唇を重ねた。
翌朝、整列して、プラントへ戻るバレル隊を見送った。
シンは敬礼し、レイの顔をちらりと見る。ほとんど眠っていないレイは、頬のあたりに疲れの色を滲ませてはいたが、いつも通りの冴えた表情を浮かべていた。
昨夜見せてくれた顔は、一夜の幻だったのだろうか?──シンは背筋を伸ばしたまま、レイの背中を見送る。
移送艦へ乗り込む前に、こちらへ敬礼したレイは、視線を合わせて目元を緩め、僅かに口の端を上げ、艦の中へ姿を消した。
了[2008/04/19]
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