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「──レイ」
求めて止まなかったシンのぬくもりが覆い被さり、抜き差ししていた指を抜いたレイは、彼の首に腕を絡め、頬と頬を擦り寄せた。
「ナマでしてもいい?」
熱く湿った息が耳朶に絡み付き、レイは、シンの頬に顔を寄せたまま、小刻みに首を縦に振った。
「レイが、すごくいやらしいから……ちょっと早いかもしれない」
「いいから……もう、焦らさないで…くれ」
切羽詰まった声を上げ、大きく開いた足をシンの細腰に絡める。僅かにシンの腰が浮き、彼のものの先端が後ろの腔へ押し付けられたのとほとんど同時に、一気に貫かれ、悲鳴に似た声を口から迸らせたレイは、侵入した彼の根元をきゅうきゅうと締め付けて、頂点へ昇りつめた。
下腹を痙攣させ、体内に残しておくのは危険な毒を吐き出したレイは、互いの腹の間に散った熱い粘液を擦り付けるように体を密着させて、更なる快楽を求めて腰を揺らす。
シーツと背中の隙間に腕を差し入れ、レイの背中を強く抱き締めたシンは、ずっと押し殺し続けてきた衝動をぶつけるかのように腰を振り、レイの体を激しく揺さぶった。
乱暴に抜き差しを繰り返され、二本の指よりも大きなシンの熱を咥えこんだ入口が引き攣れて、痛い。そう訴えたなら、彼は詫びて、すぐに慎重な動きへシフトさせるだろう。
このままでいい……このままが、いい──突き上げられるたびに、レイの開き放しの口から、女のような喘ぎが洩れる。
「……気持ち、いい?……レイ……」
耳元で問われ、レイは小刻みに頷きながら、シンの首を抱く腕に力をこめ、荒い息と艶めいた喘ぎとともに彼の名前を何度も呼んだ。
寸分の狂いなく、弱い場所を突いてくるシンの動きに翻弄される、体。繋がり、擦れ合う部分を中心に、シンに与えられる熱と快楽が、全身に波紋のように広がっていく。先ほど、欲望を吐き出したばかりの体の芯が疼き、再び、ゆっくりと首を擡げはじめた。
「──レイ」
シンの低い声が、荒い息とともに耳朶に絡み付き、レイの首の後ろがさっと粟立つ。
視覚を奪われているせいだろうか……彼の息も声も、いつもより近くに感じる。しかし、シンの存在をどれほど近くに感じていても、決してひとつにはなれない。ふたりを隔てるこの肌が熱に溶け、ひとつになることが出来たなら、たとえこの身が消えてなくなったとしても、ずっと、彼とともに生きていけるのに……。
「……シン……っ……」
シンの首を抱く腕に力をこめて、しだいに汗ばんでいく体を密着させ、彼の頬と口の端に唇を付け、キスをせがむ。こちらの望みを察知したシンは、僅かに顔をずらし、彼を突き動かす衝動のままに噛み付くようなキスをして、唾液にまみれた熱いぬめりを絡め合った。
「……ん、ふ…うっ……ぁ…っ……あぁ…っ──シ、ン…っ……」
絡み、擦れて熱を持っていく唇と、シンのものを咥えこんだ部分から洩れる、いやらしく潤んだ水の音、そして、激しい動きを繰り返すシンと、彼にしがみつく自分の重さを支えるベッドの軋みが、ふたりきりの空間に溶けて、消えていく。
どれだけ深く繋がっていたとしても、熱に溺れたとしても、彼の体内へ溶けていくことは出来ない─ふたつに分かれているこの身体が、もどかしくて仕方がなかった。
いちばん感じる場所をしつこく抉られて、レイは、口内を蹂躙するシンの熱いぬめりに吸い付きながら、彼の細腰に強く脚を絡め、再び頂点へと駆け上がっていく体をがくがくと震わせた。
「あ…っ……もう……イ、く……」
重ね合った唇の隙間から、荒い息とともに声を洩らすシンの汗ばんだ背中を抱きしめ、レイは小刻みに頷く。
「……っ……中、に……出して……、くれ……。シ、ン……いき、たい──一緒に……いきたい」
絡めた舌と、背中を抱く腕を解き、レイは、僅かに浮き上がっていた背中をシーツに付け、視覚を奪っていた布きれを外した。
達する寸前の、快楽に熟んだ瞳をこちらへ向けたシンは、上体を起こし、レイの両足を肩に担ぎ、再び、ゆっくりと、体を前へ倒していく。ロープで菱の模様を描かれた胸に膝を寄せられ、結合した部分が上を向いて、爆発寸前のシンのものが更に奥へと埋まり、レイは息を詰めた。
レイの弱点に当たるように互いの体の角度を合わせ、上から下へ、激しく抽迭されて、顎を上げたレイは、艶やかで甘い喘ぎを洩らしながらかぶりを振った。「もっと」と、うわごとのように繰り返しながら、シンの肩に縋り付き、彼の肌に指を食い込ませる。
汗にまみれた肌の表面がざわめき、シンの熱の塊が体内の弱い場所を抉るたびに、反射的に背中と声が跳ねた。
断続的に押し寄せてくる快楽の波にのまれ、息が出来ない。己のものがはち切れんばかりに膨らんだその瞬間に、腹の奥から迫り上がってきた、灼けてどろりとしたものが、管の中を走り、先端から迸る。
(──いく…っ……)
シンの肩に縋り付く手に、更に力をこめて、レイは、極限まで反らした背中を硬直させ、射精寸前のシンのものの根元をきゅうきゅうと締め付けながら、灼けた粘液を腹の上に散らした。
その後、息を詰め、腰を三度強く打ち付けたシンは、結合部に下腹を擦り付け、低い声で呻く。シンの、欲望の塊の根元がびくんびくんと脈打ち、熱い粘液が体内へ注ぎ込まれた。
シンの肩からずり落ちた手を、脱力した体の脇に投げ出して、レイは薄く目を開けた。脈動とともに吐き出される微かな熱を内壁で感じながら、ぎゅっと目を瞑って呻くシンの顔をぼんやりと眺める。すべてを放出して目を開けたシンと視線がぶつかり合い、彼は、恥ずかしそうに口元を歪めた。
シンはゆっくりと腰を引いて埋めていたものを抜き、体液で濡れそぼったそれと、レイの腹に散った欲望の残滓をティッシュペーパーで丁寧に拭った。
「……レイ…起きられる?……ロープ、解いてやるよ」
レイは、差し伸べられた手を取り、シンの肩を支えにして上体を起こす。正面から抱きしめるように、レイの背後に腕を回したシンは、手探りでロープを解きはじめた。
「……こんなことに付き合ってくれて、サンキュ。……肌が擦れて、少し赤くなってるな……ごめん」
「……痛みはないから……気にするな」
ようやく拘束を解かれたレイは、シンの肩に頬を寄せて、呟く。
「レイ、思いっきり感じてたな」
「……恥ずかしいくらいにな……」
ベッドの端に無造作に置かれたロープへ視線を落としながら、レイは、ふうっと息を吐いて笑った。
「きれいだった……すごく」
そう言ったシンの腕が背中に回り、強く抱きしめられて、こめかみに柔らかな感触が落ちてくる。
すべてが終わった後に降ってくるキスは、とても優しくて、その前の行為が性急で、衝動的であればあるほどに、とろけてしまいそうになる。
僅かに顔をずらしたレイは、こめかみと頬に触れていたシンの唇を正面から受け止めた。ちゅっ、ちゅっと軽い音を響かせ、唇を押し付け合うだけのキスをして、視線を重ね、小さく吹き出すように笑う。
「もう、二時を過ぎてしまったが……明日は、大丈夫なのか?」
尋ねると、
「明日は非番だよ。レイが暇なら、観光でも、一日中ベッドの中でも、何でも付き合うよ」
シンは、レイの頬を撫でながら答えて、にいっと笑った。その、少年の頃と変わらない笑顔を見つめて、頬を緩めたレイは、シンの首筋に鼻先を寄せ、軽く歯を立てた。
「明日のことは、後で決めよう。……今は─」
レイの頬に触れているシンの手を掴み、まだ完全には萎えていない下腹部へ誘導する。
「──もう少しだけ、相手をしてくれないか?」
こんなふうに彼を誘ったことは、今まで、一度もなかったけれど、たまには、己の欲望に忠実になるのも良いかもしれない。
「じゃあ、さ。レイ……もっと、チュウしてよ。そうしたら、すぐに、オレのも復活するから……」
レイは小さく頷き、己のそれで、シンの柔らかな唇をそっと包み込んだ。互いの舌先を絡め合いながら、だらりとうなだれているシンのものを軽く掴み、ゆるやかに扱く。
唇の隙間から洩れる息に熱がこもり、シンのものが手の中で首を擡げはじめた。
しばらくの間扱き続け、後ろの腔を貫くことが出来るくらいに硬く勃ち上がったのを確かめて、レイは、触れ合っていた唇と肌をそっと離し、ヘッドボードへ手を伸ばした。
照明のスイッチを操作し、室内を皎々と照らす明かりを消して、サイドテーブルの上に置かれたランプを灯す。
淡く、柔らかな光の中で、レイは、乱れて波打つシーツの上に両手と両膝を付いて四つ這いになり、首をよじる。後ろにいるシンへ視線を送りながら、お尻の小高い部分を撫で、そっと割り開くと、彼は大きく目を見開いて、ごくりと喉を鳴らした。
こんな恥ずかしい行動に出てしまったことを、後で思い返して身悶えしてしまうかもしれないが、すべてを縄酔いのせいにして、明日になったら忘れてしまえば良い。どれほど酒に酔ったとしても、記憶をなくしたことなどただの一度もなかったけれど……。
膝立ちでこちらへ歩み寄ってきたシンは、レイの腰に両手を添え、突き出されたお尻の小高い部分にキスをして、硬く勃ち上がった彼のものの先端を、露わになった窄まりに押し当て、柔らかくなっている襞々を一気に押し広げた。
「──あ…っ……」
反らした背中を硬直させ、体内に打ち込まれる楔と同じリズムで、薄く開いた唇から甘ったるい喘ぎを洩らす。内壁が擦れ、そこから生まれた熱が、腿の内側と背中を伝って全身へ巡っていくのを感じる。
上体を支える腕が小刻みに震えはじめ、レイは肘を曲げ、上半身をゆっくりと沈めて、シーツに付けた肘で上体を支えた。
体内に吐き出された精液が潤滑油となり、内壁の粘膜に包まれたシンのものをスムーズ滑らせて、結合した部分から、いやらしく潤んだ水の音が洩れ出る。しだいに荒くなっていく息とともに色を滲ませた声を洩らしながら、繋がり、擦れ合っている部分から体液が滴り落ちていくさまを、薄く開けた目に映した。
体の芯をちりちりと焦がす熱。それを発散させたいという衝動に駆られて、ぴんと立ち上がった股間のものに手を伸ばす。硬直したそれを握り、添うように手を滑らせたレイは、ぎゅっと目を瞑り、声を上げて、いやらしく腰をくねらせた。
「……レイ。……繋がってるところ、丸見えになってる……」
「きれいだよ」「レイ……」「……レイ」──背後から降りそそぐシンの声があたまの中に大きく響き、まだタンクの中に残っている熱い粘液が、腹の奥で蠢く。
手を滑らせる速さと、シンの腰を進める速さとをどちらからともなく一致させ、レイは、しだいに熱く昂ぶっていく体を捩った。
シンに背中を向けていることで、感じている顔を見られる気恥ずかしさから解放されたレイは、縛られたまま抱かれていた時よりもあられもない喘ぎ声を上げて、腰を揺らす。断続的に押し寄せてくる快楽の波に飲み込まれて、溺れてしまいそうだ。
「……シン──」
繰り返し名前を呼びながら、己の手で、限界ぎりぎりまで自分を追い詰めていく。手の中にある熱の塊が更に大きく膨れ上がったその瞬間に、腹の中で蠢いていたものが出口を求めて迫り上がってくるのがわかった。
「ああ…っ……シ、ン…っ」
レイは叫び、下腹を震わせて、灼けた粘液を迸らせた。
シーツを汚してしまう──真っ白になった頭の隅っこで働いた僅かな理性。脈動とともに吐き出される精液を受け止めようとすべらせた手で、鈴口を包み込む。
レイは、受け止めきれなかった白い粘液が指の隙間から滴り落ちていくさまをぼんやりと眺め、細く息を吐いて、腰を高く突き出したまま、快楽の余韻に震える体を弛緩させた。
枕に頬を埋め、開き放しの口から甘い喘ぎを洩らし、高く突き上げた腰を支えているシンの手をぎゅっと握り、彼が打ち付ける熱と衝動をむさぼった。
断続的に与えられる快楽に体が震え、気が遠くなる。
「もっと……俺を、壊せ……」
呟いて、再び、体内へ注ぎ込まれる熱と脈動を後ろに感じながら、レイは目を閉じた。
「好きだよ……レイ」
汗ばんだ背中に、柔らかな感触が落ちてくる。
「……知っている」
薄く目を開けたレイは、掠れ声で答えて、はあっと大きく息を吐き、気怠い体をゆるりと起こした。
シーツにお尻を付けて座るシンと向かい合い、己の白く濁った粘液がべったりと付着した手で、彼の肩を掴む。シンは、嫌がる素振りも見せず、レイの瞳を真っ直ぐにとらえて、顔をかたむけた。
膝立ちになったレイの内腿を、体内から零れ出たシンの白濁液が伝う。彼に見せつけるように脚を開くと、
「……やらしいな……」
そう呟いて、だらしなく頬を緩めたシンの体の中心が、また、少しずつ膨らんでいくのがわかった。
膝立ちでシンの傍へ歩み寄ったレイは、彼の頭を胸に抱き、頭頂部と額にキスをする。前方へ投げ出された彼の脚を跨いでゆっくりと腰を沈め、彼の太腿にお尻をつけて、再び勃ち上がりかけた彼のものにそっと触れた。
少しだけ下の方にあるシンの目を覗き込むように顔をかたむけ、レイは、口元を緩める。
「……夜は長いぞ……シン」
呟いて、もう一度、額に口を付けると、シンは小さく吹き出すように笑い、顎を上げて、レイの唇に軽くキスをした。
「俺を…壊してくれ。……明日、立てなくなっても、構わないから……」
シンの首に腕を絡め、鼻のあたまを擦り寄せて、囁く。
「あー……今ので理性が吹っ飛んだ……。今まで出来なかったこと、してもいい?……レイって、あんまり、こういうこと好きじゃなさそうだと思ってたから、ちょっと遠慮してたんだ。……朝まで、滅茶苦茶に抱くよ。……いい?」
背中を抱くシンの手が、熱い。レイは、返事をする代わりに、シンの唇をそっと口に含み、潤んだ水音を響かせて解放した。
小刻みに、触れるだけのキスを繰り返しながら、薄く目を開ける。
熱にとろける視線が重なったその瞬間に、ふたりは頬を緩めて、遠く離れていた時間を取り戻そうとするかのように、互いの体をしっかりと抱きしめ合う。
シンは、レイの首筋に頬を擦り寄せ、唇をあてて軽く吸った。彼の唇と舌が鎖骨の形をなぞり、胸元を這う。胸の尖端を舌先でくすぐられ、レイは、シンの頭をそっと抱きよせた。
つんと尖り、敏感になった部分を起点にして、くすぐったさと気持ちよさとが綯い交ぜになったさざ波が、肌をざわめかせる。
レイは、両手を後ろに付き、背中を反らせて、腰の位置を前へずらす。勃ち上がり、天井を仰いでいるシンのものの根元に後ろの窄まりを擦り付け、彼を挑発するように腰を揺らした。
胸の突起を丁寧に愛撫していた舌の動きが、しだいに荒々しいものになり、肌に歯を立てられて、レイは掠れた声を上げる。
乱暴な手付きで体をひっくり返され、シーツの冷たい感触に身をゆだねながら、レイは目を閉じて、痛みを伴う愛撫に打ち震える背中と腰を浮かせた。
了【milk chodolate(2009/2/1 out) 寄稿】
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