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夢を見た──遠い昔の夢だった。
大人たちに、子供だけで沖へ行くなと言われていたけれど、そんな言いつけを守っているヤツなんて誰もいなかった。救命胴衣代わりに浮き輪を持って、こっそりと沖へ向かい、カラフルな魚たちと一緒に珊瑚礁の上を泳ぎ回り、こっそりと浜辺へ戻る。
沖から帰ってきたシンが、足ヒレを付けたまま浅瀬を歩いていると、波に浚われた小さな麦わら帽子が足元を横切っていった。岸の方へ視線を向けると、金髪の、見慣れない男の子が波打ち際で奇妙なダンスを踊っていた。波が引いた瞬間に前へ進み、再び押し寄せてくる波から必死の形相で逃げまどう。波が怖いのだろうか?
沖の方へ流れていく麦わら帽子を掴み、男の子の方へ視線を向けると、彼は半分泣きべそだった顔を綻ばせて、こちらへ向かってぺこりと頭を下げた。
シンは水中眼鏡を外し、波打ち際で待つ男の子の方へ歩み寄り、
「これ、きみの?」
と、問いかける。ちょっとだけ体を縮こまらせて、シンから目を逸らした彼は、視線を泳がせながら、
「……うん。……あ…ありがとう」
と、波に浚われてしまいそうなほど小さな声で言った。
「旅行で、来たの?……海、こわい?」
シンの問いかけに、彼は目を伏せたまま頷く。シンは、彼の、色白な頬に影を落としている、金色の長いまつげに目を奪われた。ふるふると震える睫の向こうに覗く、良く晴れた空の色を写し取ったかのように青い瞳。こんなにきれいな子供を見たのは、たぶん、初めてだった。
「ひとりじゃ、つまんないだろ?いいもの見せてあげる」
持っていた麦わら帽子を、彼が作ったらしい砂山に被せて、手を差し伸べる。頬を強ばらせ、差し伸べられた手を取るか否か、もじもじと迷う仕草を見せている彼の手を、痺れを切らしたシンは強引に掴み、引き寄せた。
「僕──オレがついてるから、大丈夫」
ばしゃばしゃと水しぶきを上げながら、へっぴり腰の男の子を引っ張って、太腿が浸かるくらいの深さまで歩いたシンは、立ち止まり、
「海、入れたじゃん。怖くないだろ?」
振り返って、にいっと笑った。
彼は、海に浸かっている足元とシンの顔を交互に見遣り、繋いだ手にきゅっと力を籠めて、
「うんっ」
と、大きく頷き、はにかんだ笑顔をこちらへ向けた。
【つづく】
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