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ベッドの隅に立て掛けていた杖がカラリと音を立てて倒れた。
枯れた小枝を踏んだような響きが鼓膜に刺さり、シンはびくりと肩を震わせて、目を開けた。風に揺れるカーテンの隙間からは、夕方の、紫色に染まった空が覗いている。シンは両腕を突き出して、縮こまっていた体を思い切り伸ばし、隣のベッドへ視線を向けた。こちらを向いて目を閉じているレイの、無防備な寝顔。前よりも少しだけ痩せた頬に触れてみたいという衝動が、腹の奥の方で蠢く。その衝動に突き動かされるように上体を起こすと、乾きかけたコットンが、ぱらぱらと顔から剥がれ、腹の上に落ちた。それを払い退けたシンは、暖かな色調の、タイル貼りの床に足をつけて、そっと隣のベッドへ歩み寄る。マットレスに膝を乗せ、レイを起こさないよう慎重に、体の重さを彼の方へ移していった。
顔にかかるプラチナブロンドを梳き上げ、露わになった頬に鼻先を寄せる。ローションとシャンプーの甘い香り、そして、レイの肌の匂いが鼻腔をくすぐり、顔に熱が集中していくのがわかった。
(オレ、変態だ……)
次第に強く、早く打つ鼓動を、どうか悟られませんようにと祈りながら、シンは、レイの、無防備に薄く開いた唇の端っこへ自分のそれをそっと押し当てた。
顔を離してレイの様子を伺う。小さなうめき声とともにレイの顔が僅かに動き、乾いたコットンが頬から剥がれ、枕の上にぱらぱらと落ちていく。睫がふるりと震えて、鈍い光を宿した青い瞳がシンを捉えた。
「……どうした?」
柔らかそうな唇の隙間から、寝起きの掠れ声が洩れる。欲しい……レイの全部を暴いてやりたい─脳味噌の中の、理性を司る場所がスパークして、体の奥底から突き上げてくる衝動のままに、シンは、レイの肩を押さえこみ、唇を塞いだ。
柔らかな唇を貪り、薄く開いたままの隙間に舌を差し入れて無理矢理にこじ開ける。レイの肌の匂いを鼻腔に満たしながら、口内を蹂躙し、奥に引っ込んでいた彼の舌を己の熱いぬめりで絡め取った。突然の出来事に、パニックに陥ったレイの手が、肩を引っ掻く。のし掛かる体を押し退けようと動いた彼の手に胸を叩かれ、シンはハッと我に返った。濡れた音を響かせて唇を離すと、レイは、大きく見開いていた目をすっと細め、
「これが目的で、俺をバカンスへ誘ったのか?」
荒い息を吐きながら、冷たく言い放った。
「違う!」
反射的に否定の声を上げたけれど、レイの上にのし掛かり、唇まで奪ってしまった後では、その言葉に説得力などなかった。
「違うんだ、レイ。……本当に、こんなつもり、全然なくて……」
レイの目が更に細められ、眉間に寄った皺が深さを増していく。頭の中が真っ白だ。どうしたら、この胸の中に渦巻いている感情を、上手く彼に伝えることが出来るだろう?
いつも、感情的な態度を相手にぶつけ放しで、自分の気持ちを言葉にすることが得意ではないからと、言葉で伝える努力を放棄してきた。わかってくれないのなら、それでもいい─そんなふうに、目の前にいる相手を突き放して……。けれど、今、これまでの怠慢のツケが回ってきたみたいだ。本気で向き合いたい、理解して欲しい、受け入れて欲しいと渇望する人間を目の前にして、なにひとつ言葉が出てこない。このままでは、ようやく自分に弱さを見せてくれるようになったレイの信頼さえも失ってしまう。
(イヤだ……)
シンは、レイの上にのし掛かったまま、唾を飲み下して、乾きかけた喉を潤した。
「……レイが…病院で、完全に意識を取り戻す少し前……一度、目を開けたの、憶えてる?」
レイの顔の傍に両手をついたシンは、彼の目を真っ直ぐに見つめて問う。「いや……」と、彼が小さな声で返すのを聞いたシンは、「やっぱり」と、口の中で呟いて、細く息を吐いた。
「あの時……目を覚ましたレイが、オレにしがみついて、泣きながら『ごめんなさい』って言ったんだ。誰かとオレを間違えているのは、すぐにわかった。誰とオレを間違えているのかとか、レイが誰に謝っていたのか、気になったけど……ただ、子供みたいに泣いているレイを守りたいって……支えたいって、思った」
こちらの話にじっと耳を傾けていたレイの瞳の奥に宿っていた険の色が消え、かわりに、うっすらと潤み始めた瞳を隠すように、彼は目を伏せた。心臓のあたりが、ギュッと掴まれたみたいに痛む。シンは、掌で、レイの頬をそっと包み込むように撫で、肩口から腕を滑らせて、胸を押している手を掴んだ。
「……守りたいって…支えたいって思ってただけなのに……。オレ、いつの間にか、レイのこと、こんな風に見てたんだ──」
シンは目を伏せて、掴んでいたレイの手を、ハーフパンツの上からでもそうと分かるくらい張りつめた己のものへ押し当てる。彼の反応を確かめるのが恐くて、視線を上げることが出来なかった。
「お前の気持ちは理解した。だが──」
動揺を隠しきれていない、揺れた声が、俯いているシンの頭上から降り注ぐ。「だが─」その先に続くであろう言葉を、シンは目を伏せたまま、こめかみに銃を突きつけられた死刑囚のような面持ちで待った。
「今の俺は……いや、今まで気付かなかっただけで、俺は、昔からずっと……弱い。ほかの誰かの温もりを知ってしまったなら、ひとりでは立てなくなるだろう。初めてお前に肩を借りた時、それを悟ってしまった。お前の優しさ、甘さに付けこんで、お前を雁字搦めにしてしまうかも知れない。ずっと俺の傍にいろと……ああ、もう、言ってしまったな」
レイは自嘲気味に笑い、薄く開いた唇の隙間から細く息を吐いた。掴んでいたレイの手を解放し、視線を上げて彼の顔を見た。表に出ようとする感情に戸惑っているような、必死にそれを押し殺しているような、彼の表情─知らない顔だ、とシンは思った。
「……フラれるかと思った」
ほっと息を吐き、呟くと、
「振るつもりだ。……ひとりで立てなくなってしまっては、困る」
間髪入れずにレイは言い、彼はまた、目を伏せた。
「爺さんになるまで、傍にいる」
シンの言葉を聞いたレイは、ふんと鼻を鳴らす。
「残念ながら俺は……」
爺さんにはなれない─そう続いたであろう言葉を、シンは、レイの口を己の唇で塞いで封じ込めた。
「爺さんになるまで傍にいたいと思ってる。その覚悟はある。その前にいなくなるって言うなら、他のヤツの一生分、オレに甘えろ!!オレを頼れ!!ぶぁぁぁぁぁ~か!!」
濡れた音とともに唇を放し、シンは叫ぶ。メサイア攻防戦の前に聞かされたレイの秘密と、その時に悟った彼の中の絶望や葛藤を思い出し、気を抜くと彼の目も憚らず泣いてしまいそうだ。胸を押さえつけていたレイの手を払い退けて、シンは、彼の首筋に顔を埋めた。肩を引っ掻くレイの抵抗を無視して、首筋に纏わりついているプラチナブロンドごと、噛みつくような愛撫をする。舌に絡んでくる髪に構うことなく、レイの首筋を歯形が残るほどに強く噛み、脈打つ肌に吸い付いた。ちゅっちゅっと濡れた音を響かせながら顔を上へずらし、耳朶に舌を絡めると、レイは甲高い悲鳴を上げて、くすぐったそうに肩を聳やかし、身を捩った。同じ体格、似たような運動能力ではあったが、レイが左足にハンデを抱えている分、こちらの方に分があった。難なくレイの抵抗を押さえこみ、舌の先で彼の耳の形をなぞる。好きだ。欲しい。胸の中で呪文のように繰り返していた言葉が、知らず唇の隙間から洩れていることに気付いたのと、レイの抵抗が止んだのは、ほとんど同時だった。
もう片方の耳も丁寧に愛撫した後、顔を離したシンは、レイの顔を覗きこむ。レイは薄く目を開けて、口元に、諦めの入り混じった曖昧な笑みを浮かべ、そっと視線を逸らした。
シンは、鎖骨の窪みを唇と舌先でなぞり、淡い色を点す胸の尖端を口に含む。セックスに関しては、雑誌や映像から得た知識しかなかったけれど、
(経験なんかなくても、何とか体は動くものなんだな……きっと、本能に刷り込まれているのだろう)
と、妙に納得しながら、シンは、レイの胸の尖端を舌先で弄びながら甘噛みし、強く吸った。震える吐息が頭上から降り注ぐ。レイの両腕に、頭を包み込まれていることに気付いたシンは、頬を緩めて、僅かに顔を上げた。レイと視線を重ねて微かに笑うと、彼の熱い掌が頬に触れ、シンは顔をずらし、唇の端っこを撫でる親指の付け根に軽く歯を当てた。
まだ衰えを知らない胸と腹の、鍛え上げられた証の翳りを唇と舌先でなぞる。ハーフパンツのゴムに指を引っ掛け、それを下着ごと一気にずり下ろして、レイの足からそれを引き抜いた。僅かに勃ち上がりかけたものが露わになり、レイは、慌ててシンの体を押し退けて、ブランケットで腰を覆った。
「見ちゃだめ?」
顔を上げて問いかけると、レイは顔を真っ赤にして、「当たり前だ!」と、声を荒げる。
「同じものだろ?」
口を尖らせるシンに、「うるさい」とだけ言い放ち、レイはふいっと顔を背けた。
(男同士でするのって、やっぱ、後ろだよなぁ……。乾いてたら、痛いよなぁ……)
シンは、ぼんやりと考えを巡らせながらハーフパンツを脱ぎ捨て、サイドテーブルに置いていたローションに手を伸ばす。ローションの蓋を回し開け、ぬるりとしてはいるが本来の使い道とは違う液体を指に馴染ませた。
「後ろ……触るよ」
顔を背けているレイからの返事はない。シンはブランケットの中に手を入れ、レイの、自由に動かない方の脚を撫でて支え、そっと開かせる。ローションを馴染ませた手で、レイの脚の間の割れ目をなぞると、彼は、「ひっ」と悲鳴に似た小さな声を上げ、掌で口を覆った。
上目遣いにレイの様子を伺いながら、固く閉じている蕾を指の腹で丁寧にマッサージしていく。後ろの腔を弄ぶ指が乾かないようにローションを継ぎ足して、彼がふっと息を吐いたその瞬間、体内に中指を埋めた。
「う…あっ……」
突然の出来事に、レイは背中を震わせて、声を洩らす。シンは、レイの左足を肩に担ぎ、己の下腹部を彼の脚の間に寄せた。時間をかけて、丁寧に、丁寧に彼の後ろの腔をほぐしていく。指の抜き差しを繰り返し、口を押さえる手の隙間から洩れる声が、苦痛に似たものから甘い声に変わっていく頃、彼の蕾は、二本の指が挿入出来るくらいに柔らかくなっていた。
レイの後ろの腔からゆっくりと指を引き抜いたシンは、そそり立つ己のものにローションを擦り付け、手探りで、先端を彼の入口へ押し当てた。
「力、抜いて……」
レイの強ばった腰をブランケット越しに撫で、シンは呟く。ゆっくりと腰を前へ進め、レイの後ろの腔を、ぎちぎちと、半ば無理矢理押し広げていった。苦しそうに頬を引き攣らせたレイは、目尻に涙を浮かべ、小刻みに息を吐く。
(……キツイ)
入口の抵抗の先に広がる、温かな空間─シンは背中を震わせながら、滅茶苦茶に腰を動かしてレイを犯したいという衝動をようやく抑えた。
「全部、入った。……痛い?」
慎重に腰を前へ進めていたシンは、結合した部分に下腹を擦り付け、レイの表情を伺う。
「……気持ちが……悪い」
レイは、荒い息とともに言葉を吐き出した。
「そっか。ごめん……少し、我慢してくれる?」
言って、シンは、後ろの腔を慣らすように腰をグラインドさせた。レイの熱さに包みこまれ、体の奥深い場所からどうしようもない愛おしさがこみ上げてくる。シンは、ゆるりと腰をゆらしながら、ブランケットの下で小さく縮こまりかけているレイのものを握り、掌と指を使って刺激を与えた。レイは、はあっと大きく息を吐き、腰を捩る。少しずつ荒くなっていくレイの呼吸を聞きながら、シンは、手の中で硬さを増した彼のものを扱き続けた。
荒い息に、鼻にかかった甘い声が混ざりはじめ、勃ち上がったレイのものが射精寸前まで膨れ上がる。
「もうすぐ、イくだろ?ブランケット……汚しちゃうから、どけるよ」
レイの返事を待たずに、シンは、下腹部を覆っているブランケットを剥ぎ取り、淡い色をした彼のものを凝視した。担ぎ上げたレイの脚がずり落ちないよう慎重に左手を伸ばし、口を覆うレイの手をそっと引き剥がす。左手でレイの手をしっかりと握り、ピュアな色をしたものを扱く右手の速度を上げながら、先端から洩れ出ている先走りを指に絡めた。くちくちといやらしい音を響かせながら手を上下に滑らせると、薄く開いた唇の隙間から、
「……あっ…、あっ……」
と、控えめな声を洩らし、レイは、縋るようにシンの左手を握りしめた。
(──来る)
手の中で、レイのものが極限まで硬く、大きく膨らみ、それとほとんど同時に収縮した後ろの腔がシンのものの根元をきゅうきゅうと締め上げる。
(……やばい……かも……)
シンはぎゅっと目を瞑り、息を詰めた。
「ん…っ。……ぁあっ……」
身を捩り、今までに聞いたことがないくらい甘い叫び声を上げたレイは、背中を反らして喉を震わせる。掌で彼の脈動を感じながら、薄く目を開けたシンは、先端から迸る白く濁った粘液が、レイの鍛え上げられた腹と胸に飛び散っていくさまを見下ろしていた。
シンは、握っていたレイのものを解放して、人差し指の関節に付着した白濁液をぺろりと舐め、口内に広がっていく青い匂いを鼻から逃がす。
レイに息つく暇を与えることなく、彼の両膝の後ろに手を入れて、脚をぐいっと胸の方へ押した。上を向き、露わになっていく結合部を追いかけるように膝立ちになったシンは、レイにのし掛かるような体勢をとり、ゆっくりと腰を引いて、レイの温もりに包まれていたものを先端のぎりぎりまで引き抜き、ゆっくりと体内へ戻す。力を失いかけた前のものと同じくらい淡い色を点した彼の後ろの腔は、ピュアな色とは裏腹に淫らな口を大きく開き、シンの欲望の塊を咥えこんでいた。
「ねえ、レイ。……繋がってるの、見える?」
レイに見せつけるように、もう一度腰を引き、上目遣いに彼の反応を確かめながら、ゆっくりと抜き差しを繰り返した。顔を真っ赤に染めたレイは、眉根を寄せて、顔を背ける。
「レイ……ごめんな」
のぼせ上がってはいても、彼に嫌われても仕方のない行為に及んでいることは、ちゃんと理解している。シンは小さな声で詫びて、腰を揺らしながら、彼の膝に唇を寄せた。背けられていた顔がゆっくりとこちらを向く。その気配を視界の片隅に捉えたけれど、シンは気付かないふりをして、レイの両膝と内腿にキスを落とし続けた。
こちらへ伸びてきたレイの手が、するりと頬を撫でていく。大きく開かせていたレイの両足を解放し、シンは、その手に導かれるように彼の体にのし掛かり、薄く開いた唇にかじりつき、強く吸い付いた。ねだるようにシンの上唇をなぞるレイの舌を絡め取り、互いの唾液で濡れた唇を擦り付けながら、熱いぬめりをじっくりと味わった。親友を相手に、何やってんだろ──一瞬だけ、変に冷静な思考が脳裏をよぎったけれど、それは腰のあたりをちりちりと焦がす快楽によって簡単に掻き消され、シンは夢中でレイの体を下から突き上げるように腰を進めた。
「……ん…っ。……ふ、っ……」
レイの顔が僅かに揺れ、濡れた唇の隙間から息が洩れる。初めて男のものを咥えこんだ後ろの腔が引き攣れているのが分かる。しかし、彼が、「痛い」とも「苦しい」とも言わないことをいいことに、シンは、己の欲望のままに腰を動かし、彼の体内を抉った。首に縋り付いてきた両腕に抗うことなく、レイの顔に頬を擦り寄せ、夢中で耳朶にむしゃぶりつく。
「……ん…っ、レイ……」
繋がり合った部分から洩れるいやらしく潤んだ音と、ふたりぶんの体の重さを支えるベッドの軋みが、夕方の色に染まった室内に溶けて、消えていく。己の欲望を解消するためだけに動かしていた腰にレイの右脚が絡み付き、シンの律動に合わせて、彼の腰が揺れる。互いにタイミングを合わせて結合部を擦り付けると、自慰行為では得られないくらい強い快楽が、甘い痺れとなって脊髄を駆け抜けていった。レイの腕と右脚に力が籠もり、後ろの腔が再び、シンの熱の塊の根元をきゅうきゅうと締め付ける。
「……気持ち、よく、なってきた……?」
レイの耳元で問うと、「……ああ……」と、泣いているような吐息が耳朶を掠め、シンの背中がさっと粟立つ。シンは、シーツとレイの背中との間に出来た隙間に両腕を差し入れ、汗ばんだ彼の体を強く抱き締めて、激しく揺さぶった。
(もう少し……もう少しで──)
頂点へ駆け上がっていく体を激しく震わせたその瞬間──
「シン……」
吐息混じりの微かな声が耳朶に絡み付き、シンは、レイの体内に熱い粘液を迸らせた。
「あっ……ぁあっ」
下腹を結合した部分に擦り付け、脈動とともに、腹の中で蠢いていた熱の固まりを放出する。体の奥から迫り上がってくる、とどまることを知らない欲望が、後から後から溢れ出し、シンはぎゅっと奥歯を噛み締めて下腹を震わせた。
「……ごめ…、中に、出した……」
ようやく全てを出し尽くし、荒い息とともに言葉を吐き出すと、レイは、返事の代わりに、シンの襟髪をそっと撫でた。まだ熱が引かない体を起こすと、互いの肌で擦れた白い粘液が、密着していた腹を繋ぎ、名残惜しそうに伸びて、ぷつりと切れた。
「ごめんな……レイ」
詫びながら、萎みかけた己のものをレイの体内から引き抜き、まだ先端から白いものが滲み出ている濡れそぼったそれと、彼の腹に散った粘液を丁寧に拭う。
「合意の上でのことだ。……気にするな」
返ってきた言葉に、シンはほっと息を吐き、
「……ごめん。……ありがと」
と、小さな声で呟いた。
シンは裸のまま、レイの傍らに横たわり、風に揺れるカーテンの裾を目で追いかけている彼の端正な横顔を見つめた。ベッドルームを満たしている、夕方の色に染まった光に包まれて、普段よりも濃い金色に輝く髪をゆるく指に巻き付け、そっと唇を寄せる。
(……やっぱ…気まずいな)
シンは、傍らに横たわるレイに気付かれないよう、そっと溜息をつき、
「今日の晩飯……トマトソースの冷たいパスタでいい?」
こちらから顔を背けたままの彼に問うと、彼は「任せる」と呟いて、小さく息を吐いた。
「……うん。じゃあ、シャワー浴びて、すぐに準備するよ」
そう言いながら起き上がろうとしたシンの腕に、温かいものが触れた。
「どうした?」
腕を掴むレイの手をそっと撫で、シンは問うように顔をかたむける。
「……もう少しだけ、いいか?」
こちらへ顔を向けたレイは、上体を起こしかけたシンの腕を引き、首筋に頬を寄せた。シンは、レイの柔らかな髪を撫で、彼の頬に唇の端っこをあてる。少しだけ顔を離し、互いの本心を探り合うように鼻のあたまを擦り寄せて、上目遣いにレイの機嫌を伺った。
軽い音を響かせて、レイの唇と鼻のあたまに触れるだけのキスをする。レイはくすぐったそうに、きゅっと目を瞑り、唇の端を微かに上げた。
もう一度、鼻のあたまにキスをすると見せかけて、彼の整った鼻にかじりつく。不意を突かれて眉根を寄せたレイに、仕返しとばかりに強く鼻を摘まれて、シンは顔を離し、レイの顔を見下ろした。
目を伏せたレイの、面映さを滲ませた笑顔と、セピア色に染まった記憶の中で笑っている幼い面影とがうっすらと重なり、シンは、その懐かしさに目を細めた。
了【しんとれいがなつにすきかってするほん(2009/8 out) 寄稿】
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